2019年に読んだ本まとめ
タイトル通り2019年に読んだ本の感想を, 主観的に, ドバっと, 小言を交えながら, 雑に, 書いていきます.
毎年毎年100冊は読みたいと思っているものの, 今年も達成されず… 100冊宣言の形骸化は否めないですが, それでも2020年こそは達成したいものです.
過去の読んだ本まとめシリーズ
1. タコの心身問題 — 頭足類から考える意識の起源 / ピーター・ゴドフリー=スミス #購入
ちょっと話題になってた本ですね. 哲学者である著者がタコの観察を通して得た知見をベースに心身問題について論じる本です. 内容は可もなく不可もなしといった感じで, 特にオススメはしないかな. 科学本ではないイメージ. タコの寿命って存外短くて1–2年程度らしい…
2. 協力と罰の生物学 / 大槻 久
読み流したのと年始に読んでいた本なので, ちょっと記憶があいまい. 複数の個体(e.g., 花と昆虫)がいるときに, ケースごとに協力と罰をどう解釈できるか, みたいなことをまとめた本だったはず.
3. 物理学は世界をどこまで解明できるか―真理を探究する科学全史 / マルセロ・グライサー
知の限界とは何か, 何が知り得ないことなのかという境界線を物理学の観点から上手く引いたなぁって感じ. 特段目新しいことは言っていなかったと思う. 日経サイエンスに小記事が載っていて著者のことを知った. 原著タイトルがかっこいいのでぜひ: “The Island of Knowledge”
4. 八咫烏外伝 烏百花 / 阿部 智里
八咫烏シリーズは2018年にそれなりにはまったファンタジーで, その外伝. 1作目でかったるいなぁと思って投げてしまった人は頑張って3作目の急展開まで読んでみて.
5. 昨日がなければ明日もない / 宮部 みゆき
ドラマになった「ペテロの葬列」の系統で, これは短編集. 暗いリアリティのある話を書かせるのであれば, 宮部さんが至高ですね. タイトルそのままのセリフが出てくるんですが, ずっしりきます.
6–7. 日経サイエンス 2019年1月号, 2月号 #購入
2019年の初めまで定期購読していたんですが解約しました. 日経サイエンスの記事はクオリティが高いし好きなんだけど, 読む時間が確保できねぇ… 自分の知らない分野のトピックとかつまみ食いできるので, 良いインプットだったんですがね, もったいない.
8. 日本の思想 / 丸山 眞男 #購入
読んで本当に良かったと思う本のうちの一つ. 丸山眞男著「 『である』ことと『する』こと」を国語の教科書で読んだことのある人は多いんじゃなかろうか. 僕はあの文章にえらく感動して, それが掲載されている「日本の思想」を購入して積ん読していました. 長らく積ん読になっていたけど(実に5年), 今年消費しました.
三章「思想のあり方について」についてはけっこう詳しく論じたので気になった人は記事読んで.
9. 言語・思考・現実 / Benjamin Lee Whorf #購入
「言語の構造が, その人の世界の認識のしかたに影響を与える」というサピア=ウォーフの仮説(Wikipediaより)で有名な著者による言語学の本. ずっと言語学を学んでみたいという憧れがあって, 頑張って読んでみた. Whorf のバックグラウンドはなかなかに面白くて, 防火技師をやっていた経験から言語学の研究をするようになったらしい. ホーピ語というネイティブアメリカンの言語は時制というものを丸っきり異なる方式で捉えていると聞いて, 一生理解できない思考方式が存在するかもしれない事実をちょっぴし残念に思う.
10. 発現 / 阿部 智里
八咫烏シリーズの著者で, ホラーです. 個人的には, この人八咫烏シリーズからこんなに文章変えられるのかってすごい感動して, 逆にホラーが薄れたり笑. 本の終わらせ方好きです. ああ, こんなに日本語扱えたら楽しいんだろうなって思う.
11. シルトの梯子 / Greg Egan #購入
ハードSFで読者をかなり選びます. 直交三部作の系はある程度は追えたんだけど, 今回は量子グラフ理論というループ量子重力理論の上位互換らしいものが設定に出てきて, 系の理解は諦めた. タイトルの「シルトの梯子」は数学の技法の名前なんですが, これを使ったメタファーが秀逸.
12. 風と行く者 / 上橋菜穂子
精霊の守り人シリーズより. 上橋さんって博士もってるんですね. 世界観の設計が緻密で綺麗. このシリーズこれから先拝めるのだろうか…
13. 藁の王 / 谷崎由依 #購入
表題作にぐっさり刺された. あらすじ貼っておきますね.
小説家としてデビューしたが著書は一冊だけ、しかも絶版。そんな私が巨大私立大学で創作を教えることになった。だが自身の執筆は行き詰まり、教え子たちも苦悩し隘路へとはまり込んでいく。なぜ私たちは小説を志すのか — 新潮社HPより
たまたまTwitterで見かけて, あらすじとカバーに惹かれて購入したもの. 僕の #名刺代わりの小説10選 にランクインしてます.
14. 鹿の王 水底の橋 / 上橋菜穂子
こちらは鹿の王の続編. 医術を主題においたとても良質な物語です. 相変わらず舞台設定がうまいなぁと. 鹿の王のファンなら読まないとひたすら損.
15. アレックスと私 / Irene Maxine Pepperberg
アレックスというのは著名なオウムの名前で, なんでも5歳児くらいの知能はあるとか. 僕も名前くらいは聞いたことがあった. そのアレックスを育てた研究者によるアレックスの物語. アレックスの能力の高さに舌を巻きつつ, 実験計画すごい大変そうだとかとか.
16. 仮想通貨の教科書 / Narayanan, A., Bonneau, J., Felten, E., Miller, A., & Goldfeder, S. #購入
BitCoinの原理をわかりやーすく平文で書いたもの. ブロックチェーンの本ではない. 良書です. これと Mastering Blockchain とか読んでおけば, この分野のイントロダクションにはなりそう. きっと Satoshi Nakamoto は一人のエンジニアだったに違いない.
17. Twenty Lectures on Algorithmic Game Theory / Tim Roughgarden
輪行本. 前半がメカニズムデザイン, 後半はよく聞くゲーム理論の話(といっても学部の頃サラッとやった内容とは全然違かった). スピーディな展開をしていて内容はかなり濃密です. ダイナミックな証明がたくさんあって, こういう議論できるようになりたいなーと思います. 演習はあんまり手をつけられてない. Chap19–20 は人に説明しろって言われても無理. あとはそこそこの理解. 好みなのはapproximateほげほげ系のメカニズムデザインとdynamicsの収束スピード周りの議論.
今後こういった系統の研究をちょっとばかしするかも.
18. 隣接界 / Christopher McKenzie Priest #購入
何だこの本はー!!って形容しがたい衝撃を受けた本. 読後の喪失感が独特. SFの皮かぶった文学作品だった. Priestの本は初めて読んだんだけど他の作品読みたいような読みたくないような. すごい泥沼感を感じる。。。こういう本好きだけど好きだけど嫌い(ツンデレ). 何も知らないで読んでたから前半はどこに向かうんだろ…って困惑して, 後半あれ?って気づいた辺りから一気読み. SFが読みたい17の1位なのわかるけどわからん!!600pの2段組は割と暴力. ここまで綺麗に疎らなストーリー散らばめられるのか… こんなテクニックあったら絶対物語書くの楽しい.
#名刺代わりの小説10選 にランクイン.
19. 死者の国 / Jean-Christophe Grangé #購入
700pオーバー2段組の超重厚なミステリ. 内容は暗い. 読むにつれてだんだん救いがないことに気がつく. 5点満点の4.5くらいな感覚. 主人公の性格好きだよ.
20. なめらかな世界と、その敵 / 伴名 練 #購入
これも話題になったSF本ですね. 表紙のインパクトすごい. どーん.
中に収録されている短編どれも好きだけど, 強いて挙げるとすれば「美亜羽へ贈る拳銃」が好み. よく訓練された計算家の書く技巧的な文章という印象を受けた. おすすめ.
21. タイムトラベル 「時間」の歴史を物語る / James Gleick #購入
James Gleick は Chaos, Information を取り扱った本を書いていて, 次にこれがきた. タイムトラベルですよ! 今までみたいにサイエンティフィックな内容をガンガン扱うのかなと思ったら, 文学作品を羅列してこういうふうに時間に対する価値観変わってきましたよね?という投げかけをしている印象. H.G. ウェルズが主役です.
読書ツイートしたら著者本人にRTされ, その流れでなんとWilliam Gibson (Neuromancerの著者) にもRTされてしまった!!すごくない?(すごくない.)
22. いかにして問題をとくか / George Polya #購入
原著名 “How To Solve It”. 有名本ですね. 翻訳がちょっと読みにくく(原著で読めばよかったかも), 手放しで賞賛はしないけれど読む価値は言わずもがな. なかに書かれている手順は実用してる感覚がありますが, 思考法を整理するには良いリストだと思います. 問題(だいたい幾何学)もそこそこ楽しみつつ解くやつは解いた. 何回も言及されてる文言が呪文のように耳にこびりついた実感はあり.「似たような問題はないか?」
23–24. パターン認識と機械学習 上・下 / Christopher Bishop #購入
通称 PRML. 機械学習の有名本. ベイジアーン. 2019 年最も楽しみながら読んだ本.
とても良い本で, 誰かの人生を変えられそうなパワーがあるのは間違いない. 毎日 2 時間 10p オーバーくらいで読み進めて約 2ヶ月くらいで読みました. 各章 20–40p くらいのノートを作ってます. 演習は上巻は本文中に言及されてるやつはだいたいやった気がする. 下巻はパッと式が展開出来そうなやつと, 単純に込入りすぎて面倒なやつは除いてボチボチって感じで取り組みました. 物理で導出したことあるやつも, それなりにあった.
学部の頃の自分が読んでも全然読み込めなかったんだろうな. 恐らく全章において Bishop が自分の論文引用してきてるのが圧巻だった.
25. Introduction to Distributed Algorithms 2nd Edition / Gerard Tel
通称 Tel 本. 輪行本. 半年かけて読んだ本. 2019 年最も苦しめられた本.
分散アルゴリズムに対して一貫した視座を与えてくれます. 指導教員が一番好きな本って言っていたもので, 僕も好きになりました. 100%理解はしてないし(流し読みした部分もある), 決して “読める” 本ではないし, 実用的でもないとは思うんだけど, スルメ本.
思い入れが深いのが chap4 の NetChange までの導入の仕方とその証明, chap13 の FLP 不可能性の証明で散々解読に苦戦した部分 (Tel本の初読はやめた方がいい), chap7 の GHS アルゴリズム, chap17 のいくつか綺麗なアルゴリズムかな. chap11 の Sense of Direction は群論ベースで辛かったので読み飛ばしたんですが, この間参加した国際会議の招待講演がこの内容を扱っていて面白かったので, もう少し勉強したいな.
証明に使える技の幅が増えたのは間違いないし, モデリングの能力もかなり上がった気はする. こういう本書けるレベルの一貫性を持てるようになりたいものです。。。
2020年は Nancy Lynch 著の大著を読む予定.
26–29. 白銀の墟 玄の月 十二国記 第1〜4巻 / 小野 不由美
18年ぶりの長編新刊! 僕も10年くらいは待ったと思います. シリーズを通じてばら撒いてきた伏線をごっそり回収していきやがった. 4巻一気に読むことを勧めます.
使える言葉の幅のレベルが異次元なのと, (破綻なく)物語の構成で扱える登場人物の人数の多さが小野さんの不気味さを醸し出しているのだと思う(褒め).
30. デカルトからベイトソンへ — 世界の再魔術 / Morris Berman #購入
復刊して話題になっていたので購入. 見たことある論説あるなと思ったら Julian Jaynes の二分心をけっこう引いていた. 最後の方に未来への理想像を語るシーンがあるんだけど, やっぱり古い本だなぁと思ってしまう. もうちょっと社会は前進したと思うんだよ, って言いたくなった記憶がある.
勧める人を選ぶ本.
31. ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち / Paul Graham #購入
Lisper による著名なエッセイ. 世の中に喧嘩売りまくっていて好き. 僕はハッカーではないけど, わかるなぁと思うポイントがそこそこの頻度であって, 特にCS系の人だったら好きになれると思う. だって第一章が「どうしてオタクはもてないか」だよ?笑.
以上. 読書量減った実感があり, ちょっと悲しい. というか単純に忙しかったんだよ. 来年は読書用のロッキングチェアを買おう.