2018年読んで特に好みだった論文たち

Keisuke Okumura | 奥村圭祐
9 min readDec 31, 2018

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年末に読んだ本をまとめるようにしてるけど (2016年) (2017年), 読んだ論文の中から特に気に入ったものをまとめるのもいいんじゃないかと思った. 読書は重要なインプットの手段だけれど, 大学院生にとっては論文も同じくらい重要なインプットの手段だ. その年何を見て何を考えたのかを知りたいのなら, 読んだ本と同じくらい, 読んだ論文も重視すべきなのだろう.

ちなみに文献管理で使っているのは Mendeley. Dropbox に設定ファイルと論文PDFを置いてる. シンボリックリンクをうまい具合に設置しておくと PC 間で不具合なくデータの同期がとれて便利である. PDF フォルダに新しくファイルが追加されると Evernote に自動でノートが作られるようにしてたりもする. データは一括で Evernote に突っ込んでおきたいので.

さて本題. 基本的には感想です. 内容は論文見てください. 専門用語っぽいもの普通に使うので分からなくてもゴメンナサイ. 分野は多岐にわたります. 間違いあったら指摘してもらえると大変勉強になります. 番号はランキングではなく形式的につけてるだけです.

1 Samad, M., Chung, A. J., & Shams, L. (2015). Perception of body ownership is driven by Bayesian sensory inference. PloS one, 10(2), e0117178.

多感覚統合の計算モデルをベイジアンで作ってる研究室があって(ラストオーサーのとこ, おそらく), ラバーバンドイリュージョン (RHI) というのマネキンハンドを自分の手のように感じてしまう錯覚に適応してみた事例です. 何が好みかって, 理論形成→理論からの予測→実験で検証の一連の流れが綺麗に一致しているところ. 背景もしっかりしていて, 視覚-聴覚間の多感覚統合の時空間知覚に関しての錯覚は同じ理論のもと検証がされていて, じゃあ有名な RHI には適応可能だろうか?といって話を展開している節があります. 実験手法はこれでもかって感じで細部まで気を使っている. 参考になる. モデル自体も数式が意味を直感的に表現していて僕は好きです.

2 van der Hoort, B., Reingardt, M., & Ehrsson, H. H. (2017). Body ownership promotes visual awareness. eLife, 6, e26022.

eLife の論文ってやっぱりすごいんですね(感覚がない). 身体所有感が視覚的気づきに与える影響を, 両眼視野闘争と RHI を利用して調査を行った研究です. 特に勉強になったのは時系列データの解析手法. データはこうやって解析していくんですよって言われてるみたいでした. 両眼視野闘争も昔からある手法みたいですが, 何かできないだろうか(わくわく). 著者的には今後, 意識がどうやって生じるかといった内容の方に進めたいんだろうか. ディスカッションをそこら辺に言及しながら進めていたのも面白かった. もともと多感覚統合をやっている人たちはそういう節があるのかもしれないけど.

3 Ma, H., Li, J., Kumar, T. K., & Koenig, S. (2017, May). Lifelong multi-agent path finding for online pickup and delivery tasks. In Proceedings of the 16th Conference on Autonomous Agents and MultiAgent Systems (pp. 837–845). International Foundation for Autonomous Agents and Multiagent Systems.

倉庫内の荷物運搬タスクをロボットでやらせたいという話はよくあって (Amazon の Kiva とかね), だから Multi-agent Path Finding の解法が色々と研究されてたりする文脈はあります. この論文は現実問題を綺麗にモデル化されていて, 次々と追加されるタスクをエージェントがピックアップして配達先まで届けなければならない, としています.もちろん NP-hard なので最適解は出せませんが, 対象とするグラフが条件を満たせばちゃんと解いてくれる保証付きのアルゴリズムも提案されてます. トークン渡し形式で分散型でも動く. 応用範囲は広いはず.

これとか. タクシー待ちみたいな動きしてるのでサッサと取り替えてしまえ笑.

4 Brero, G., Lubin, B., & Seuken, S. (2017, February). Probably Approximately Efficient Combinatorial Auctions via Machine Learning. In AAAI (pp. 397–405).

マニアックすぎる… 組合せオークションにおける各エージェントの効用関数を機械学習で推定して, 学習結果をもとに商品の割当を決めるんだけど, サポートベクター回帰でガウシアンカーネルとか使うとうまい具合に整数計画問題に還元することができて, それをIPソルバで解きましょうというお話. 途中の式変形(5.4章あたり)が変態じみている(褒め言葉). 綺麗だけど. 機械学習ってこういう使い方をすればいいのかって思わせてくれた論文で, ある複雑な問題に向き合ったときに関数近似していけばいいんじゃんっていう観点をつけてくれた.

5 Rostami, M., Kolouri, S., Kim, K., & Eaton, E. (2018, July). Multi-Agent Distributed Lifelong Learning for Collective Knowledge Acquisition. In Proceedings of the 17th International Conference on Autonomous Agents and MultiAgent Systems (pp. 712–720). International Foundation for Autonomous Agents and Multiagent Systems.

数式はかなり前提知識必要とする話なので大雑把にしか読めてないんだけど, モチベーションが大好きな論文. まず Lifelong Machine Learning という壮大なピクチャーがいいよね.

Lifelong Machine Learning focuses on developing versatile systems that accumulate and refine their knowledge over time. — lifelongml.org より

これを群れでやりましょう. その時に知識表現をどう伝えるべきかとかとか. Collective Knowledge (集合知)とは何だろうかという曖昧な疑問に, こんな形を与えられるのでは?と精度良く切り込めている気がする. 群れの学習スピードが速くなるのはさておき, エージェント間の協調的な行動がこんな形で表現されたら素敵だなぁとか妄想してます.

6 Watts, J., Sheehan, O., Atkinson, Q. D., Bulbulia, J., & Gray, R. D. (2016). Ritual human sacrifice promoted and sustained the evolution of stratified societies. Nature, 532(7598), 228.

仮説を論文から引用しておこう. 内容はこれの検証.

human sacrifice stabilizes social stratification once stratification has arisen, and promotes a shift to strictly inherited class systems.

論文が好きというより, 検証している仮説がどうしようもない人間の習性みたいな点を表していて好き. 伊藤計劃の「虐殺器官」っぽさを感じる. 英語ダメって人は(僕もだけど) wired が記事書いてくれてるので, そちらを読むと雰囲気感はわかるかも.

7 Bahrami, B., Olsen, K., Latham, P. E., Roepstorff, A., Rees, G., & Frith, C. D. (2010). Optimally interacting minds. Science, 329(5995), 1081–1085.

そうだろうとは思ったけどそういう研究あったのか. 集合知が本当に個人より良い判断を下すことができるのだろうか?という疑問を扱った研究. リサーチクエスチョンはシンプル.

But are two heads really better than one?

2人の人が “nearly equal visual sensitivity” なら意思決定タスクのスコアが上がるけど, そうでもない場合は “two heads were actually worse than the better one” だそう. 民主主義に対して皮肉を感じる.

以上. 興味が見事に現れているようないないような. 以下, 論文を読むことに対しての雑感.

数を読むことは決して本質的なことではないと思うんだけど, それなりに数を読まないと「あ, これは良い論文だ」って思えないし, 自分の嗜好性も掴めないといいますか. 一つの分野に固執してるのも僕はあんまり好きじゃないので専門性もなくフワフワしてますが, 読んだ論文の中には「他の人の目なんか気にせず面白い研究しようぜ」って勇気づけてくれるものもあったり. 基本的に著者たちが一生懸命作った “作品” なので, どんなものでもある程度のリスペクトをもって接したいと思う (書いてみて初めて分かる感想).

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